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行ってみたい建築探訪─サヴォア邸(Villa Savoye, Poissy)
行ってみたい建築探訪─サヴォア邸(Villa Savoye, Poissy)
― 近代建築の象徴として輝き続ける白いキューブ
フランス・パリ近郊ポワシーに建つ サヴォア邸(Villa Savoye) は、ル・コルビュジエが1931年に完成させた住宅であり、近代建築の象徴的存在として世界的に知られています。現在は「ル・コルビュジエの建築作品」として世界遺産に登録され、その美しい白い外観は、今なお数多くの建築家・デザイナーに影響を与えています。
サヴォア邸は、ル・コルビュジエの思想を凝縮した、近代建築史上もっとも重要な作品のひとつです。
五原則によって生み出された美しい白い外観、内部に流れる柔らかな動線、屋上庭園の開放感……。
1931年の完成と言えば、今から94年前(昭和6年)の建築となります。
現代の目で見てもまったく古さを感じさせないのは、「理想の住まいとは何か」 という普遍的な問いにコルビュジエが真摯に向き合った結果と言えるでしょう。
サヴォア邸とは?
サヴォア邸は、富裕なサヴォア夫妻の週末住宅として設計されました。
コルビュジエはその依頼に対し、従来の住宅像を大きく超える、まったく新しい“近代住宅の理想形”を提案しました。
それを象徴するのが、宙に浮かぶような白いボリュームと、内部を連続的につなぐ動線計画。
まさに 「建築は住むための機械である(a machine for living)」 という彼の思想を体現した作品です。
サヴォア邸で採用された「近代建築の五原則」
サヴォア邸が特に有名なのは、コルビュジエが提唱した 近代建築の五原則(Les cinq points de l’architecture moderne) をもっとも純粋な形で実現した建物だからです。
ここでは、その“五原則”をわかりやすく説明しながら、サヴォア邸での具体的な実践例を紹介します。
近代建築の五原則(ル・コルビュジエ)
① ピロティ(Pilotis)
建物を柱で持ち上げ、地面から切り離す設計。
サヴォア邸では1階部分に壁がほとんどなく、細い柱(ピロティ)が建物全体を支えています。
これにより、
●建物が軽やかに宙に浮いたように見える
●車がスムーズに車寄せへ入れる
●地面が“自由な庭”として機能する
という効果が生まれました。
② 屋上庭園(Toit-terrasse)
屋根を従来の三角屋根ではなく平らにして、自然を感じる屋上庭園にする。
サヴォア邸の屋上には、周囲の風景を眺められるテラスがあります。
コルビュジエは「失われた庭を屋上に取り戻す」と考え、住宅に屋上庭園を積極的に導入しました。
③ 自由な平面(Plan libre)
壁の位置を構造(柱)の制約から自由にすることで、柔軟な内部空間を作る。
ピロティ構造により、柱が主要な荷重を負担するため、壁はどこに配置してもよくなりました。
サヴォア邸内部は、直線階段やスロープで階層がゆるやかにつながり、回遊性のある空間が特徴です。
④ 水平連続窓(Fenêtre en longueur)
採光と眺望を最大化するために、横長に窓を連続させる。
サヴォア邸の2階には建物をぐるりと取り巻くように水平連続窓が設けられ、室内全体に均一な光を取り込みます。
外の景色がパノラマのように見えるのも大きな魅力です。
⑤ 自由なファサード(Façade libre)
構造を柱に任せることで、外壁のデザインを自由にする。
サヴォア邸の外観は、壁が構造体ではないため、
●窓の位置
●開口の大きさ
●壁の厚み
●曲線と直線の組み合わせ
などを自在にデザインすることが可能でした。
外観の白いキューブと曲線の車寄せは、その柔軟性を象徴しています。
サヴォア邸が現代にも与える影響
サヴォア邸は、単なる住宅ではなく 「近代建築のマニフェスト(宣言)」 として位置づけられます。
五原則を完全な形で実践したこの建物は、のちの住宅建築・公共建築・都市計画にまで大きな影響を与えました。
●建物を軽く見せるデザイン
●インドアとアウトドアの連続性
●車社会を前提とした動線
●モダニズム住宅の原型
これらの多くは現代住宅にもそのまま受け継がれています。
ル・コルビュジエの系譜
ル・コルビュジエの系譜は、日本において前川國男、坂倉準三、吉阪隆正の「日本の3大弟子」を中心に、彼らが持ち帰った近代建築の理念が次の世代へ受け継がれる形で形成されました。
この系譜には、コルビュジエの建築を日本独自のスタイルへ発展させた丹下健三、さらに概念や思想を深めた磯崎新、黒川紀章といった建築家が含まれます。