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住宅は『きのこ』— 篠原一男の設計思想
住宅は『きのこ』— 篠原一男の設計思想
日本の名建築家、住宅建築といえば、篠原一男(1925-2006年)氏。
篠原氏は、しばしば住宅を「きのこ」にたとえました。ここでいう「きのこ」とは、人工的な画一の建築ではなく、**自然のように土地や風土に根ざし、そこから生まれ育つ“生きた住宅”**という意味合いを持っています。この言葉には、「住宅は定型化・工業化された商品ではなく、その地の風土や人々の暮らしに応じて“生えてくる”ものであるべきだ」という、篠原の強い思想が隠されています。
このブログでは、まずその思想の背景、次に代表作を紹介し、最後に、日興ホームグループ広島支社 KItoNOKOを取り上げます。
https://architecturephoto.net/150307/
篠原一男が「住宅=きのこ」と考えた理由
篠原は数学や構造をバックグラウンドに持ちながら、日本の伝統的な「民家」や寺院建築の空間性、そしてそれらが土地や風土とともに育まれた文脈に注目しました。
彼にとって「住宅」は、単なる機械的な箱ではなく、「風土・時間・人の営み」を受け止め、生き続ける「場(ば)」であり、「作品」であり、「芸術」であるという認識がありました。
だからこそ「住宅はきのこである」という表現には、「どこでもいいから同じような箱を建てるのではなく、その土地に根を下ろして、生活と時間の経過によって“成長”する家であれ」という、設計者としての強いメッセージが込められています。篠原は、住宅作品を年代や特徴ごとに「様式(スタイル)」で分類しました。それぞれの「様式」は、その時代における住宅のあり方、そして彼なりの問いと実験の反映だったのです。
代表作にみる「きのこ住宅」
から傘の家(1961年)
篠原の初期の代表する住宅。東京・練馬に1959–61年に建設されました。
名前の通り、屋根はまるで傘(umbrella)のように大きく広がっており、その屋根の構造自体が住宅の空間をつくり出します。屋根を支える木造の柱・梁構造を露わにし、天井高約4 mという開放的な内部空間が、実際の床面積(約55 ㎡)以上の広がりを感じさせます。
図面、当時の写真、家具や障子絵も含めたデザインはすべて篠原自身によるもので、日本の伝統建築や民家の抑制された美意識、簡潔な美しさがモダンな住宅として再解釈されています。
2000年代になって移築の危機がありましたが、現在はスイスの家具メーカー Vitra によってドイツ・ヴァイル・アム・ラインの「Vitra Campus」に移築・再建され、世界に向けて公開されています。これにより、1960年代の日本の住宅が持つ思想と空間性が、国際的な舞台でも紹介されることになりました。
から傘の家 は、まさに「住宅はきのこである」という概念の象徴 — 土地の条件や風土に応じた造形というよりも、「家」という概念を再定義する試みそのものだったのです。
篠原の思想が現代に問うもの
篠原一男は、自らの住宅を単なる「住むための箱」や「住宅商品」ではなく、「時間と空間の芸術作品」と捉えました。
住宅における「形式」「サイズ」「間取り」にとどまらず、「風土」「地形」「光」「時間」「人の営み」を包み込む包容力を持つ家。
そして、時代や流行、経済合理だけでは語れない、住宅の「根源」を問い直す姿勢。
このような思想は、今日、住宅が量産・規格化されてしまいがちな状況のなかで、再び注目される価値があると思います。
日興ホームグループ広島支社 KItoNOKO(きとのこ)
広島を拠点に住宅を手がける日興ホーム。その広島支社として、2025年に新しくオープンしたのが KItoNOKO(きとのこ) です。
KItoNOKOは、「木(KI)」と「鋸(NOKO)」という言葉に象徴されるように、木のぬくもりや自然素材、地域の気候・暮らしに配慮した家づくりを大切にしています。
また、規格にとらわれず、お客さま一人ひとりのライフスタイルや土地の条件、希望に応える「自由設計」「注文住宅」を基本にしており、まさに「その土地に応じて生えてくる家 — きのこ的住宅」を目指すアプローチです。
さらに、家を建てるだけでなく、建てた後の暮らしやコミュニティに至るまで丁寧にサポートを行う姿勢も特徴で、長く住み継がれる家を提案しています。
つまり、KItoNOKOの家づくりは、篠原一男のいう「住宅はきのこだ」という思想を、現代日本の住宅事情のなかで再解釈しようとする試みだと思います。
まとめ — きのこを育てるように、家をつくる
「住宅=きのこ」という比喩には、ただのハウスデザインを超えて、土地・風土・時間・人の営みを抱える、生きた居場所としての家の可能性が示されています。
篠原一男 の代表作である「から傘の家」は、それぞれ異なるアプローチでこの思想を体現し、住宅という存在が時代や場所を超えて問い直されうることを示しました。
そして今、広島で活動する 日興ホームグループ の支社 KItoNOKO が、木の温もりを活かし、自由設計を重視し、住む人と土地に寄り添った家づくりを行なっていることも、「きのこ的住宅」の設計思想と同じなのかもしれません。
―家が、ただの箱ではなく、暮らしと時間と風土とともに“育つ”ものになる。そんな家づくりを、あなたも考えてみませんか?