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「木造」にこだわる ─ 木造建築の魅力と防火の課題

「木造」にこだわる ─ 木造建築の魅力と防火の課題

木造建築は、日本で伝統的に使われてきた建築方式です。木材は再生可能で、温もりのある風合いや室内の調湿性、断熱性など、快適な住環境をもたらします。最近では、住宅だけでなくオフィスや商業施設、集合住宅などにおいても「木造」や「木質構造」の需要が再び高まっています。
しかし一方で「可燃性の木材を使う」ことは、火災リスクに敏感でなければなりません。伝統的な「裸木」(防火対策なしの木造)は、火がつくと延焼・倒壊の危険が高く、過去の火災で多くの被害を出してきました。現代においては、木造でも火災安全性を確保するための設計や技術が進化しています。そこで登場するのが、以下のような「防火・耐火のための設計・構造」です。

 

 

 

 基本用語をかんたん整理

燃えしろ設計
木材は火災で表面が燃えて炭化層ができ、その炭化層がさらに燃えるのを遅らせる性質があります。この性質を使い、火災で失われるであろう木材の「燃えしろ分」をあらかじめ設計に見込んで、構造部材の断面を大きめに取るのが燃えしろ設計です。これにより、木材をあらわしのデザインのまま使いながら、火災時に構造耐力を維持することができます。
ただし、この設計法は「準耐火構造」を前提にする場合が多く、「火災終了後まで建物が倒れず残ること」を保証する「耐火建築」には通常使えない点に注意。

 

防火構造/耐火構造/準耐火建築
これらは建物全体または主要構造部の防火・耐火性能を定めた分類です。
●防火構造:延焼を防ぐために、外壁や軒裏など「火の移り」を防止する構造。隣接家屋などからの類焼防止が目的。
●準耐火建築:建物の主要構造部を「準耐火構造」で造ることで、火災時に所定の時間、崩壊・倒壊せず延焼防止を図る建物。木造でも可能です。
●耐火建築:より高い基準。主要構造部を「耐火構造」で包み、たとえ消火活動無しでも、火災後も自立し続けることを想定。延焼防止や倒壊防止が最優先。
※「準耐火」と「耐火」は似て聞こえますが、目的とレベルに差があります。準耐火は “比較的安全な木造” を実現するもの、「耐火」は “火災から建物と周囲を守る” 建物で、要求水準が高くなります。

 

 

 

最近の日本における木造防火の進展

●木造においても、1時間耐火構造、さらには2時間耐火構造を持つ建物が認定され、実際に建てられています。つまり、木造=“火事に弱い”というイメージは過去のものになりつつあります。
●「被覆型」「燃え止まり型」「鉄骨内蔵型」など、さまざまな手法で「木造 × 耐火構造」が実現されています。用途としては住宅だけでなく、少し大きめの集合住宅や商業施設などでも木造耐火が広がっています。
●法律(建築基準法)の改正や認定制度の整備により、木造での防火・耐火建築がしやすくなってきています。これによって、木造建築の可能性が再び拡大しています。

このように、「木造=昔ながらの“危険な家”」ではなく、「デザイン性と安全性を両立した木質建築」が現実となっています。

 

 

最近の大規模火災から見る「防火・耐火の重要性」

事例① 2025年香港高層マンション火災(宏福苑)

2025年11月、香港の高層集合住宅「宏福苑」で大火災が発生。8棟の高層ビルがほぼ燃え、少なくとも数百人が死亡、多数が行方不明になるという、香港史上最悪級の惨事となりました。
火源は、外部の竹足場と、それを覆っていた防護ネットや発泡スチロールといった“燃えやすい建築資材”。これが火災拡大を著しく加速させたとされ、複数の関係者が過失致死などで逮捕されています。
このような高層集合住宅では、内部の延焼を防ぎ、住民が安全に避難できるよう「防火・耐火構造」「延焼防止」「避難経路の確保」が不可欠であることが、痛感されました。

 

 

事例② 2025年大分市佐賀関大規模火災

2025年11月18日夜、大分県佐賀関地区で住宅街が火に包まれ、約170棟、焼失面積約4万8900㎡におよぶ大規模火災となりました。これは、1976年以降の日本における「地震を伴わない都市火災」として最大級の被害規模と報じられています。
この地域は「木造の建物が密集」「道幅が狭く消防車が入りづらい」「強風・乾燥」といった、まさに火災拡大しやすい条件がそろっていました。これにより、一度火がつくと隣家へ燃え移り、大規模延焼につながったとみられています。
火災後、多くの住民が避難生活を余儀なくされ、元の家も財産も一夜にして失いました。こうした事例は、日本国内でも他人事ではありません。

 

 

 

なぜ「防火設計」が重要か — 火災に備えるための考え方

これらの惨事を見ると、「建物の構造・素材だけ」でなく、「設計思想と防火の仕組み」がどれほど重要かが浮き彫りになります。特に以下の点が大事です:

●燃えやすい材料や足場材の使用を避ける:竹や木材の足場、可燃シート・防護ネット、発泡スチロールなどは火災拡大のリスクが高い。もし使うなら、難燃・不燃のものを選ぶ必要があります。
●延焼防止・防火壁・防火区画・耐火構造の採用:特に密集地や集合住宅では、隣家への延焼防止、火の広がりを抑える設計が重要。たとえ火災が起きても、延焼や倒壊を防ぐ構造が求められます。木造でも「準耐火建築」「耐火建築」は可能です。
●避難経路・消火設備の整備と維持:火災時、住人が安全に避難できるか、また消防が到着できるかは、建物の構造だけでなく、地域のインフラ・道路・避難計画にも依存します。密集地では特に注意が必要。
●地域全体での防災意識 — 空き家の管理や近隣との連携:密集地では、空き家や老朽化家屋、燃えやすい素材の併用が拡大リスクを高めます。地域ぐるみで防災の取り組みをすることが重要です。

 

 

 

終わりに — 「木造 × 防火」で、安全と快適を両立する未来へ

木造建築は、日本の気候・文化に合った、快適で持続可能な建築方法です。しかしそれだけでは不十分。最近の香港の高層住宅火災や、日本国内で起きた大規模な市街地火災は、私たちに「火災への備え」「正しい設計と素材選び」「地域としての防災意識」の大切さを突きつけています。

一昔前は「木造=火に弱い」と言われましたが、現代では「燃えしろ設計」や「準耐火構造」「耐火構造」などによって、木造でも高い防火性を確保することが可能です。

もしあなたがこれから住まいを建てる、あるいはリフォームするなら――「木のぬくもり」と「火災安全性」の両立を、設計者や施工者としっかり話すことを強くおすすめします。

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